転生したのに0レベル
〜チートがもらえなかったので、のんびり暮らします〜


130 おっきなウサギのお肉は貴重なんだって



「ねぇ、ロルフさん。ストールさんは大丈夫って言ってたけど、やっぱりどこか悪いの?」

「どうしたんじゃ、いきなり。わしはいたって健康じゃよ」

 気になったから聞いてみたんだけど、そしたらロルフさんにびっくりされちゃった。

 この感じだと本当にご病気じゃないみたいだけど、ならなんで何度も咳をしたんだろう?

「あのねぇ、さっきマロシュさんがお話してた時にゴホンって咳したでしょ? 前にキャンベルさんが話してる時もしてたから僕、もしかしたらご病気なんじゃ無いかって思ったんだ」

「咳? ああいや、あれはじゃな……そうじゃ、歳のせい。歳のせいなんじゃ。この歳になると喉に引っかかりを覚えてのぉ、どうしても咳が出てしまうんじゃよ。じゃから別にどこか悪いと言う訳ではないんじゃよ」

 なんだ、そうなのか。

 ロルフさんがご病気じゃないって聞いて、僕は一安心。

「はははっ、坊や。フランセン老が病気になる事などまずありえないから心配しなくてもいい。なにせ彼は我々なんかより余程多く魔物の肉を口にする機会があるからな」

 とその時、マロシュさんがこんな事を言い出したんだよね。

「魔物のお肉? マロシュさん、魔物のお肉を食べるとご病気にならないの?」

「そうだよ、坊や。魔物の肉には高価な薬草同様、普通の動物の肉や野菜よりも多くの魔力が含まれているからな。そんな物を食べているのだから、そう簡単に病気になんかならないよ」

 へぇ、魔物のお肉を食べてると病気にならないんだ。

 そう言えば僕の村の人たちって怪我はよくするけど、めったに病気にならないんだよね。僕、今までそれは狩りをしてレベルが上がってるからだと思ってたんだけど、そっか、魔物のお肉をよく食べてるからなんだね。

「いやいや、店主よ。わしでも言うほどは食しておらんぞ。確かに肉を口にする機会は多いが、それは森の入り口付近の動物の物。おぬしの言う魔力を多く含んだ魔物の肉は中々手に入らぬからな」

「それは意外ですな。フランセン老ならば毎日でも口にできそうなものなのですが」

「馬鹿を申すな。イーノックカウの森で魔物の肉を得ようと思えば普通はかなり奥まで踏み込まねばならぬ。そしてそんな奥地から狩った獲物を運び出すとなれば当然単価の安い肉よりも他の素材が優先になるというのは店主でも解るであろう。確かにわしはCランクの冒険者チームと契約をしておるが、それでも魔物の肉を毎日食せる程手には入らぬよ」

 そう言えばイーノックカウの森って、入り口の辺りでは魔物より動物の方が多かったっけ。

 僕の場合は探知魔法で探せるけど、あの広い森で偶然魔物を見つけるなんていうのは難しいだろうから、狩りたい人は魔物の数が多い森の奥にいかないといけないんだろうね。

「旦那様、話題に上がっている魔物の肉ですが、カールフェルト様がお土産にと結構な量を頂きました」

「なんと、魔物の肉とな?」

 丁度のその話をしてたからって、ストールさんが僕のお土産の話をしたんだよね。

 そしたらロルフさんはびっくりしながら僕の方を見たんだ。でも、そんなびっくりする事かなぁ? イーノックカウの森と違って、僕の村の近くの森だと入り口どころか時々森の外にまで一角ウサギが居る事があるんだから、持ってきたっておかしく無いのに。

 僕はそう思ったんだけど、ロルフさんは違ったみたい。

 だって、驚いてた顔が、だんだん嬉しそうな顔に変わって行ったんだもん。

「グランリルからと言う事は、ホーンラビットの肉かのぉ。それはまた貴重な物を」

「えっとね、一角ウサギのお肉もあるけど、今回は来るちょっと前にジャイアントラビットが狩れたから、そのお肉も持ってきたんだ」

 ところが僕がジャイアントラビットの話をしたら、何でかまたびっくりした顔になっちゃったんだよね。、

「ジャイアントラビットの肉がお土産とは。いやはや、流石はフランセン老の客人。豪気ですのぉ」

 おまけにマロシュさんまでこんな事を言い出したもんだから、僕は何でみんなこんなにびっくりしてるの? ってロルフさんに聞いてみたら、ジャイアントラビットのお肉は滅多に手に入らない高級なお肉なんだよって教えられたんだ。

「イーノックカウの森で獲れる魔物はラッド系かフロッグ等の爬虫類系が殆どなんじゃ。それらも普通の動物の肉よりは美味じゃが、ラビット系やボア系などの変質前でも美味な魔物の肉はそうそう手には入らぬから、どうしても高くなるのじゃよ」

「そうそう。さっきも話題に出たけど、肉よりも他の素材の方が高く売れるだろ。だからわざわざイーノックカウまで来るのなら、重くて嵩張る肉は積荷が少なくて空きが多い時位しか運んできてくれないんだよ」

 なるほどなぁ。そう言えば僕がお父さんと一緒に馬車で来た時もお肉は積んでなかったし、この間ウサギの魔物があんなにいっぱい獲れたのに、お肉は村のみんなで別けちゃって町に売りに行こうなんて話はちょびっとも出なかったっけ。

 僕がカバンに入れて持ってきたお肉だってそんなに多く無いのに10キロ以上あったんだから、そんなのをいっぱい積んだりしたら馬もバテちゃいそうだもん。誰も売りに来てくれないってのも解る気がするよ。

「それにこの街じゃホーンラビットの肉でさえ中々手に入らないっていうのに、さらに希少なジャイアントラビットの肉となると美食家で有名なこの街の領主でさえ年に数回くらいしか食べられないんじゃないか? そんなのをお土産って言われたら、そりゃ豪気だなって思うよ」

 えっ? ジャイアントラビットのお肉ってそんなに手に入りにくいの? でも、僕たちの村ではみんな普通に食べてるんだけど。

「ロルフさん。ジャイアントラビットって、あんまり居ないの?」

「いや、どちらかと言うとジャイアントラビットを狩る者が少ないと言うべきじゃろうな。あの魔物は体が大きい上にすばやい。おまけに強靭な後ろ足から繰り出される攻撃を喰らえば、たとえ金属鎧を着たものであってもただではすまんからのぉ」

「そうそう。あの速さに対応しようと思ったら皮鎧しか着ることができないからね。そんな命がけの狩りをするくらいなら、普通はもっと楽な獲物を探すのが普通だろうね」

 そう言えばお兄ちゃんたちも不意打ちの時、真っ先に後ろ足を斬り付けてたっけ。やっぱりあの後ろ足は危険なんだなぁ。

「まぁそんな魔物の肉だから、このイーノックカウではかなり高値で取引されてるって訳だ」

「その上ラビット系の肉は人気があるからのぉ。いくら高くても市場に出ればすぐに売れてしまう。じゃから中々口にする事のできぬ貴重な肉と言うわけなんじゃよ」

 そっか。ロルフさんはお金持ちだから値段が高くてもそんなに気にしないだろうけど、手に入らないんじゃ食べられないもんね。

 持ってきてよかった。

 と、僕がそう思いながらニコニコしてたら、ストールさんがこの話に一つ付け加えたんだ。

「旦那様。もう一つお伝えしなければならない事がございます。カールフェルト様がお持ちになられたジャイアントラビットの肉ですが、別宅の料理人が申すには後ろ足の腿の肉だとの事です」

 そしたら何でかロルフさんとマロシュさんが固まっちゃった。

 あれ? もしかして、腿のお肉だとダメだった?

 そう言えばジャイアントラビットのお肉は確かに貴重かもしれないけど、腿のお肉ってお腹の所と違って脂が少なくて筋肉ばっかりだからあんまり美味しくない所なのかも?

 でも、お母さんはここが一番喜んでもらえるって言って包んでたんだけどなぁ。

 あっ、待って。もしかすると狩りをしてレベルが上がってる僕たちとロルフさんたちとでは美味しいって感じるところが違ってて、脂の多いお腹の所を持ってきたほうがよかったのかも。

 そんな事を考えながら僕がおろおろとしていると、ストールさんが僕の肩に手を置いて、

「大丈夫ですよ、カールフェルト様。大量に取れる胴体の肉と違い、1体に付き2本しかない腿の肉はより貴重なのです。ですから、ジャイアントラビットの腿の肉と聞いてお二人とも、驚かれているだけですから」

 笑顔で僕にそう言ってくれたんだ。

 そっか。腿のお肉がダメなんじゃなかったんだね。ああ、よかった。


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